アメリカ農業における高度情報利用の現段階−現地調査報告書−

農林水産省「情報高度利用検討委員会会」派遣調査報告

1.はじめに
2.日本の農業経営の情報化の段階
3.アメリカにおける農業経営の情報化の背景
4.アメリカの農業情報化を支える大学普及部と民間情報会社
5.農業経営の情報化に関する大学の体制
1)大学普及部の活動
2)コンピュータ・ネットワーキング
3)フロリダ大学IFAS(Institute of Food & Agricultural Science)のコンピュータ・ネット・ワーク
4)高度情報化時代へ向けての研究動向
6.農業用パソコン・ソフトの市場、ソフトウェア開発
1)農業用パソコン・ソフト市場
2)知的処理ソフトウェアの農業経営への利用可能性と課題
3)テキサスA&M大学の農業経営者支援ソフトウェアの開発
4)アメリカ農務省のソフト・ウェア開発支援
7.コーネル大学の農業経営診断分析サービス
8.新しい情報媒体、情報通信システムの進展
1)インターネットの利用
2)CD−ROMの普及
3)コーネル大学のインターネット電子図書館
4)テキサスA&M大学の電子会議室ネットワーク
5)原料綿花の電子オークション・システム
6)フロリダ大学の野菜、果物価格の音声市場情報システム
7)農業経営情報の衛星通信システム−DTN−
9.むすび

 1. はじめに
 わが国農業を取り巻く国際環境は急変した。農産物の流れに国境の壁が取り除かれたのである。これに対処して、新政策では「経営感覚に優れた経営体の育成」課題を大きく取り上げられ、農業者の自主性、創意工夫、自由な経営展開が強調されている。その帰するところ「経営者能力」である。本来的に農業経営者の“経営者能力”とは、主体の内的な知的能力であり、主体が学習や体験を積み重ねて高めてゆくしかない。だが、合理的な経営決定(問題発見と問題解決、あるいは経営診断・分析による経営改善点の摘出とそれを踏まえた経営計画の策定)とは、経営主体がどのような「営農情報」を入手し、どう利用するかという“情報リテラシィ”にも依存している。それは経営者能力の具体内容の一部である。そう考えるなら、情報リテラシィ教育、そして経営主体の営農情報ニーズを満たす情報利用環境をどう構築するかは、農業経営者機能を外部から支援する方策として重要である。
 他方、情報通信・情報処理の技術は目ざましい発展期を迎えた。これまで、テキスト文字に限られていた情報通信が飛躍的な多様性を持ち、しかも地球規模の広がりで通信が可能になろうとしている。インターネット(INTERNET)はその象徴と言えよう。情報スーパー・ハイウェイ、インターネット、あるいはマルチメディア・・・・と、いわゆるコンピュータ技術とディジタル通信技術が融合して結実した「高度情報処理技術」を頻繁に耳にする。マルチメディアの姿も次第に輪郭が明らかになりつつある今日、これら高度情報処理技術は、上述した農業経営者機能を外部支援する観点で大きな可能性が込められている。農業者の知的管理(あるいは意思決定)を外部から支援するデバイスとしての潜在的利用可能性は高い。
 包括的な見通しとして、21世紀初頭までには、いわゆる「高度情報社会」を迎えるであろうが、高度情報社会とは、
(1)高度な情報処理技術(ソフトウェア)が確立している(必ずしも、末端ユーザーが高度な処理を行うことを意味するものではなく、どこかで処理されていればよい)、
(2)多様な情報伝達媒体(マルチ・メディア)が利用されていること、そして、
(3)誰もが日常的に実際に情報を利用している、
であろう。(1)と(2)は高度情報処理技術を如何に導入するか、如何なる利用環境を整えるかの問題であろう。(3)は情報利用者の側の問題であり、利用主体がニーズを意識し、コストやベネフィットを意識して日常的に有効に利用できるかである。
 問題はこの3点を軸とする歯車をどうかみ合わせるかである。農業の情報化を進めるに当たっても同様な問題認識を持たなければならない。すなわち、今後の情報処理・情報通信の新たな発展を見通すこと、そしてそれらが農業分野にどのように活用出来るか、またその経済環境条件はどう整備すべきかの検討である。
 そこで、筆者は、上述したように形を表しはじめたHITを、個別農業経営という経済活動の場にどのように迎えたらよいのか、すなわち、(1)どういう展開が可能なのか、(2)今後の有効活用に何が課題か、を問題意識にして、三菱スペース・ソフトウエアKK情報エンジニアリング・センターの下村道彦氏に同行を願い、1995年12月に、その先進国アメリカを調査してきた。
 アメリカの農業経営環境が自然条件、社会・経済条件のいずれを取っても日本のそれとは全く異なるのは言及するまでもなく、それによって両国の農業技術も相違する。しかし、営農を支援する情報技術だけは自然条件、社会・経済条件による制約を受けない。また、それを享受する農業経営者の思考のロジックは普遍である。大学、農務省、情報関連会社・機関、および農家を駆け足で調査してきたのであったが、多くの知見を得たのでここに報告する。調査活動の日程と主要な訪問先、訪問者は付表に示す。

   付表 アメリカ調査旅行の日程(1996年11月〜12月、15日間)


The purpose of survey trip:
 Research Efforts and Required Social Arrangements for the Probable Next
Generation's Information Technology Uses in Agricultural and/or Rural Sectors -
A Case of the United States-

Itenerary :
  26(Sun), Nov. 成田→ College Station(TX)
1)┌27(Mon), Nov. 〜28(Tue), Nov. Texas A&M University
 │     Prof. James McGrann(Dept. of Agr. Econ.)
 │     Mr. Jon Welch(Financial Management Consultants, Ltd.)
 │     Prof. Carl Anderson(Dept. of Agr. Econ.)
 │     Prof. Lawrence Lippke(Texas Agr. Extension Service)
 │     Prof. Robert Cohen(Texas Agr. Extension Service)
 └     Prof. Rodney Zent(Trans-Texas Videoconference Network)
  29(Wed), Nov. College Station → Gainesville(FL)
2)┌30(Thu), Nov. 〜 1(Fri), Dec. University of Florida
 │     Prof. Tom Hintz(IFAS Computer Network)
 │     Dr. Ashley Wood(Educational Media and Services)
 │     Prof. Chris Stephens(Extension Administraton)
 │     Dr. Dale McPherson(Extension Administraton)
 │     Prof. Thomas Fasulo(Dept. of Entomology and Nematology)
 │     Prof. John VanSickle(Dept. of Food Resource Econ.)
 └     Mr. John Jackson(Lake County Coop. Extension Service)
   2(Sat), Dec. Gainesville →Omaha(NE)
   3(San), Dec. Holiday
3)┌ 4(Mon), Dec. DTN (Data Transmission Network)
 │     Mr. Ron Rodvelt(Market Research)
 └     Mr. Alan Brugler(Senior Analyst)
   5(Tue), Dec. Omah→Ithaca(NY)
4)┌ 6(Wed), Dec. Cornell University
 │     Prof. Nelson Bills(Dept. of Agr., Resources, & Managerial Econ.)
 │     Dr. Jon Atherton(Cornell Coop. Extension)
 │     Dr. Linda Putnam(Dept. of Agr., Resources, & Managerial Econ.)
 │     Mrs. Zsuza Koltay(Mann Library)
 └     Holub Farms(Dairy Farm)
   7(Thu), Dec. Ithaca→ Washington D.C.
5)┌ 8(Fri), Dec. US Department of Agriculture
 │     Dr. Donald West(Education & Extension Service)
 │     Dr. Fred Woods(Education & Extension Service)
 └     Dr. Basil Eastwood(Education & Extension Service)
   9(Sat), Dec. Washington D.C.──┐
  10(San), Dec.           └→成田

 2. 日本の農業経営の情報化の段階
 まず、日本の農業、特に経営レベルでの情報化がどの段階にあるかを確認しておく。農水省の資料によると、1994年の全国のパソコンの農家段階への普及台数は2万1千台を数える。また、実数は把握できないが、営農活動の意思決定を支援するソフトウェアも数社から発売されているのも事実である。農業経営に、どのような利用のされ方をしているのか、また有効に利用されているかどうかの実態は明らかでないが、農業経営におけるパソコン利用が急速な勢いで広まりを見せている。他方、地域的な農業・農村情報ネットワーク・システムの設置数は403か所を数える。しかし、1995年「農業センサス」による「販売農家」数265万戸に比べるとまだ僅かな比率にしかならないし、限られ経営、地域での普及である。
 そんな中、農協や第三セクターが事業主体となって情報センターを運営する形態の地域情報システムが各地で整備される。北海道の十勝農協連、あるいは県試験場と地域農業改良普及センター(旧農業改良普及所)が手を組んで運営する石川県、茨城県のような先進的なシステムを手本に地域農業情報センターの設立を競っている。国も構造改善事業や農村地域活性化事業等で、その整備を財源的にバックアップしている。こうして、どうやら今後のわが国の農業経営支援の情報化は、地域ネット・ワーク方式が主流になりそうである。
 しかし、センター方式は、センターのホスト・コンピュータに依存するため、地域内の農業者に提供する情報が画一的である。農業経営者に自主性や創意工夫を求めようとする目指すべき経営者像からみると、むしろ時代に逆行していると言わざるを得ない。他方、先行事例をみると、FAX端末が主力なのが特徴である。使い易さ、コンピュータ・アレルギーの排除に考慮してである。だが、これではパソコンが本来持つ情報処理(および蓄積)機能を生かしていない。
 もち論、それなりに第一段階の情報化としては成果を挙げてきた。ともかく、何も無かった段階から形を作り、それを広めることに努力が払われてきたのであるから。それは、つい最近まで言ってきた「情報化社会」の財産を農業経営に導入するフェイズであったとも言える。しかし、情報化技術は日進月歩、1ランク上がった。つまり、現在は「高度情報社会」である。一般社会では情報化が日常化してしまったと言う意味で“化”が抜け、しかも情報利用技術が一段と高度化したと言う意味で“高度”が付いた。そのような社会なり、産業なりを支えるのが高度情報処理技術である。
 今後、推進してゆくのは、そのような高度情報処理技術を応用した第二段階の情報化である。「高度情報処理技術」の意味や意義を論ずるのは本稿の趣旨から外れるが、筆者の理解を一口で述べれば、「ハードウェア系の処理能力(ならびに記憶能力)、通信能力の向上に歩を合わせて、膨大なデータと知的処理、多様な情報表現方法を駆使して、意思決定者に、(1)“高度な”そして(2)“簡便に”問題解決支援ツールとなる処理体系」である。すなわち、高度情報処理技術は、第1にはより高度な情報の処理(より付加価値の高い情報の創出)、第2にはより簡便な処理(情報利用の外的環境条件も)を内容としよう。インターネット網の利用、HDやFDに代わる高密度入出力媒体の利用、画像(静止画、動画)、音声等の入出力や仮想現実化(VR)等のいわゆる“マルチメディア”は高度情報処理技術の主要内容である。問題は、その応用可能性が大いにありうる高度情報処理技術の農業経営の場面での利用方法や環境を具体構想することである。
 3. アメリカにおける農業経営の情報化の背景
世界のどの国でも農業生産を担っているのは家族経営である。だが、先進国では商品生産を目的とする経営体である。特にアメリカの農業経営は市場に誘導されて生産を行っている。いわゆる「商業的農業」を目指していることに疑いはない。もとよりアメリカの農地は広大であるが、市場(消費地)から隔てた遠隔地に農業経営が立地している。そのため、輸送型、貯蔵型の農業経営であり、市場に対する危険分散のために「先物取引市場」が形成されていることからも示唆されるように、市場に敏感に反応せずして有利な経営展開はあり得ない。
 アメリカの家族経営のもう1つの特徴は経営立地条件を必ずしも絶対固定的な「与件」と見做していないことである。つまり、アメリカの農業経営は「農場制農場」であり、住居地を囲んで圃場が団地化し、団地化した農地が経営の単位を形成している。農場制農場は規模の経済性を獲得するための重要な前提であるが、もう一つの理由は、より大きな規模の農場、自然立地・交通立地や地力が有利な農場を購入・移転することが農業経営発展の重要な展開方策であるとする思想と深く関わっている。今日、それは実際には困難になってきているものの、新天地を求めて農場を移動するのは苦痛ではなく、むしろ、ビジネス・チャンスの獲得であると理解されている。農場制農場は産業としてモビリティを高く維持しようとする考え方が背景にある。
 日本の家族経営は、イエの土着性、村落共同体を基本とし、「経営」と「イエ」と「ムラ社会」を不分離な一体としてみるが、アメリカには、個人の技量に応じて「社会的階梯」を昇ることを保証する個人主義経済倫理が支持されていて、イエの家督相続、あるいは世襲の思想はない。息子が父親の農場を引き継ぎたければ買い取るしかない。農場単位の売買、移転は社会的階梯を昇る具体方策なのである。
 要するに、アメリカの家族農業経営は、経営決定における経済的自由判断の裁量幅が十分に大きい。だが、自己決定に対する結果を自らのものとする個別経済体であることを求められている。これがアメリカの商業的農業の意味である。このため、農場主は自己教育によって経営者能力を高め、創造性を自己啓発し、危険負担しながら有利な立地条件への移動と規模拡大を図りつつ経営発展する経営者機能を意識している。アメリカ農業の経営発展は経営者としての個人の能力に裏付けられたものである。
 別の表現をすると、農業経営者は基本的には市場からの諸情報に基づいて個々に自らの活動を決定している。アメリカの農業を支えているのは、日本と同様に「家族経営」ではあるが、しかし経営者は経営決定の全てを自らが決定し、市場競争から結果する全てに対して責任を享受する。政府の市場干渉がないではないが、基本的には市場メカニズムを活用している。アメリカの農業経営には市場の諸力(=競争原理)が作用している。反面、経営者には経営与件さえも変えることのできる自己裁量幅を有する。
 そのようなアメリカの農業経営環境にあって、情報は経営者にとって不可欠な『財』であり、情報収集・処理能力は経営者能力の重要な1側面である。営農活動もマーケッテング活動も情報に基づく意思決定が先行する。各種政策プログラムへの参加もである。個々が経営決定するから、個々がそのニーズを発意し、必要な情報を収集する。アメリカの農業経営には情報利用の経済的インセンィブがある。
 なお、このアメリカ農業との対比でわが国の農業をみると、わが国の農業経営は、お互いが近隣の相互扶助、情報交換に頼り合う社会である。また、農協は営農指導を行い、資材購入や生産物販売を代行する。経営と生活の両方で農協に大きく依存していて、農協が情報源である情報が最も多い。しかも、それは必ずしも農業者が意識して求めたものではなく、与えられるものであり、対価を意識しないで入手している。
 4. アメリカの農業情報化を支える大学普及部と民間情報会社
農業センサスによる1992年の農家戸数は190万戸、うち販売金額が10万ドル以上の農家数は17%である(50万ドル以上ともなれば僅かに2%に過ぎない)。テキサスA&M大学のJ.マックグラン教授によれば、営農情報の主体的需要者はせいぜい上記販売金額が10万ドル以上の17%の農家であるという。しかも、このグループに属する多くの農家は概ね農業経営簿記を記帳しているものの、その多数はファーム・マネジャーと言われる農業会計士に整理・分析を依頼している。要するに、情報商品の販売市場としては非常に小さい。また、どの農業経営者自身がコンピュータ通信で営農情報を入手したり、コンピュータ処理する情報収集・分析のプロセスをルーチン化しているというのではない。
 だが、情報利用の観点で言及すれば、アメリカの農業経営者は実に積極的に情報を利用している。商品価格情報、資材価格情報、土壌分析情報、乳牛検定情報、病害虫発生予察情報、環境保全情報、気象情報、あるいは経営診断の標準指標、さらには農政・経済情報や新技術情報を多様なソースから収集し、これを経営診断分析や経営計画、それに日常の販売計画や作業実施計画等に供している。そして、これらの情報を提供するフロント・エンドに位置するのは、1つは郡普及所、そして2つ目は民間の農業経営コンサルタント(農業経営の財務管理、税務管理も含む)等である。
 すなわち、各種農業情報を提供するのは農務省→大学普及部→郡普及所の系列と、農業経営コンサルタント会社、情報処理サービス会社、地方のエレベータ会社である。農業経営の情報化推進の主役がこの2系列になっているのはアメリカの大きな特徴である。(ついでに言及しておくが、アメリカの大学では、大学スタッフの営利を目的にするコンサルタント業(Private Consultant)の兼業が許されている。研究成果が大学での教育や普及活動に反映されると共に、私的ビジネスにも応用できるという経済的インセンティブがあるようである。)
 アメリカの農業経営に対する情報提供のフローが、このように2系列あることにつき、フロリダ大学普及部部長のC.ステファン教授は言う。「この2系列は競争関係にあるのではなく、補完関係にある。民間が利益の上がる分野でドンドン農業経営の情報化を進めてくれるのは結構。競争して良質の情報提供者が生き残ればよい。農業経営の情報化の観点での普及部の任務は、
 (1)農業経営者の情報処理・利用教育を行い、
 (2)営農情報処理ソフトウェアのカタログ作成等による広報活動とソフトウェア・レビュー(市販ソフトの評価)公表、各種データベースの所在情報の提供、
 (3)商業ベースに乗らないソフトウェアやデータベースの作成・販売・利用支援、政府系公的情報に専門家による解説を加えての広報活動、
    ただし、ここでの「支援」とは、農業経営者への支援のみならず、民間ソフトウェア会社やコンサルタント会社への支援を含む、
 (4)最も大切なのが農家からの電話によるさまざまな問い合わせに対して、郡普及所が直接、あるいは情報検索して回答することである。普及活動も予算削減に合っているが、郡普及所は情報の“中間需要者”、“解説者”(インタープリター)である限り、社会的な役割は重大である。」と強調した。
 一方、USDAのCES(Cooperative Extension System)のD.ウエスト博士は、「当面の農業経営の情報化の目標は、農業経営者が自在にE−mail、WWWを利用したり、各種DSにアクセスできる水準であるが、分析的な処理と理解には郡普及所や民間コンサルタント等が支援する必要がある。すなわち、普及員や民間コンサルタントの“Face to Face Meeting”が農業経営の情報化推進の基本と考えている」と言う。
 5. 農業経営の情報化に関する大学の体制
1)大学普及部の活動
 アメリカの大学には、いわゆるランド・グラント大学(Land Grant University )という州立大学がある。その創設時からの社会的役割は次のようである。
(1)教育(学部教育、大学院教育、社会人教育)
(2)普及活動(CES:Cooperative Extension Service 。主な対象分野は農業、家政問題、市民社会生活、4−Hクラブ活動支援)
(3)研究(産業、生活・社会、州・市町村行政に関わる課題について)
 農業経営者はこのランド・グラント大学(以下、単に「大学」と呼ぶ。)の普及部、あるいはその地方出先である郡事務所(County Office )にアクセスして各種個別相談サービスを受けたり、データ・ベースを検索したり、さらには個別の情報処理サービスを受ける。後に述べるが、最近はインターネット利用の同報通信・双方通信の情報伝達が一般化している。
 大学普及部の情報サービス内容は技術情報から経営管理情報まで多岐に渡る。多くの州立大学が伝統的に個別農家の簿記処理・財務診断のサービスを実施している。他の大きな情報サービスとして気象情報やUSDAの各種観測、予測統計をさらに解析して営農支援情報として恒常的に公表する。わが国のアメダスと同様な微気象自動観測装置が各地に設置されている。そのデータはリアル・タイム(1時間毎に観測)で関係機関や民間会社、個人に送られているが、大学は重要なユーザーである。連邦政府や州政府が公表する市場統計や作況統計(予測)も受け取る。これらのデータは大学でイクステンション・スペシャリストによる予測分析のデータとして利用される。予測結果に総評的なコメントをつけて公表される。また送られてきたでーたはデータ・ベース化されているので、これを用いて作物の生育・収量予測、農薬散布の適期予測、市場予測の研究にも利用されている。農業経営者は気軽に大学普及部やその出先にアクセスしてこられの情報を受け取る。
 他方、大学普及部のもう1つの重要な活動は、農家向け情報リテラシィ教育と農家利用、コンサルタント利用のソフト・ウェアの開発である。大学の社会人生涯教育事業の一貫として、農家向けパソコン利用講座を各地で開催している。各大学にはコンピュータ・トレーニング・センターがあり、講習会は有料で行われているが、教育施設は常に無料開放されている。第2は、大学普及部の開発するソフトウェアについてである。大学普及部のソフトウェア開発の考え方は、少なくともトップ・ダウン型ではない。また、クローズド・システムではない。大学は、時代を先導するソフト・ウェアを開発し、これを農業情報ビジネス界に知識移転している。
 大学普及部の活動は概略以上のようであるが、これを要約すると、大学は農業者の情報利用の「中間媒介者」、「中間処理者」、「情報利用教育者」の立場にある。しかも扱う情報は、いわば外部情報も内部情報もである。

2)コンピュータ・ネットワーキング
 農業情報はデータ通信が必須である。また、操作性や理解度を高める観点で図形等の利用ニーズが高まるにつれて通信データ量は膨大な量になるし、双方向通信システムも必要である。国家プロジェクトとして推進されているのが、“スーパー・ハイウェイ”であるが、末端での一般的な利用が可能になるのはまだ5〜6年先であると言われている。
 USDAでスーパー・ハイウェイの農業への貢献を尋ねた。その電送路の大きさ(末端の伝送路は電話ケーブルもCATV同軸回線もどちらも可とのこと)から「インターラクティブ・テレビ」と称されるパソコン・テレビで鮮明な動画情報の通信が可能になるという。これを応用すると、圃場や畜舎の遠隔モニターやロボット化を一段と推進しようとしている。世界中と電子メールを交換も交換できるようにする。毎日、USDAや民間の提供するマーケッテング情報やニューズ・レターを即座に入手したり、電子売買が可能になる。専門家による遠隔操作で作物の病害虫診断、生育診断、衛星から送られてくる高解像度の画像情報から精度の高い世界各地の作物の収量予測も可能にする。
 だが、当面の情報化推進の目玉は「インターネット」であると言う。各大学普及部には 州内に散らばるキャンパス、研究施設、そして郡普及所を接続する専用のネットワークが あるが、現在構想されているスーパー・ハイウェイの先駆けとも言うべき光ファイバー・ ケーブルや衛星通信を使って、そのような各州大学普及部間のネットワークのインターネ ット融合が進んでいる。普及部スタッフはもち論であるが、農業経営者もインターネット 上のどの州立大学のサーバーにでも直接アクセスし、自分が最も利用したいソフト・ウェ アやデータ・ベースを利用できるように整備が進んでいる。
 例えば、今回、訪問したコーネル大学普及部CCES(Cornell CooperativeExtension System)には、UNIXマシン(1993年に導入)をホスト機とするCENET(Cornell Extension Network )がニューヨーク州内の57か所の郡普及所を接続している。現在のシステムはインターネット対応が不十分なために、郡普及所システムを含めた全システムを1997年中の一新を目指して更新が進行中である。新システムでは、農業経営者の直接アクセスが期待されていると言う。

3)フロリダ大学IFAS(Institute of Food & Agricultural Science)のコンピュータ・ネット・ワーク
 どの大学普及部のネットワーク・システムもほぼ同じであるので、ここではフロリダ大学の場合ついて紹介する。フロリダ大学IFASとは、農学部(College)、普及部、各種農業研究ンターを統括する組織である。普及部は組織上は独立組織であるが、スタッフは多くが学部兼任でり、人事配置はかなり流動的であると言う。予算的も有機的な配分構造になっている。人事が流動なのは、フロリダ州が温帯から亜熱帯までを含む気象条件、海に囲まれた立地性から、さまざまな作、果樹、野菜、畜産が生産されていて、スタッフは専門性を保ちながらも常に異なる専門部門と同して学際的な研究、普及活動を実践しているからだとのことである。
 コンピュータ・ネット・ワークの中枢的管理を担うのが、1980年に創設した“IFASネット・ワーク・センター”である。“ネットワーク・コミュニケーション”をスローガンにして、従来の交錯して多数あった学内教育・研究用ネット(FIRN)や学外接続ネット(24ヶ所のリサーチ・サイト、ならびに67ヶ所の郡普及所)を、統一したプロトコルで管理し、オープン・ネットワークにして、ユーザーの利便性も高める(特に、Connectability)のがセンターの目的である。キャンパス外の2ヵ所にVAXのバック・アップ回線が形成されている。
 同センターがIFASの全部署のスタッフ、および学生ユーザー(クライアント数でみると、大学予算で購入し、登録しているキャンパス内端末3000の端末、これとほぼ同数のスタッフや学生の個人端末、それに普及部関係のキャンパス外端末)を統括管理しているのが、センター長のR.ヒンツ教授以下、全職員で12名(VAXマシン担当4名、PC端末担当3名、通信関連ソフト担当2名、事務・管理職3名)という小さな所帯である。
 1981年にMS−DOSを全クライアントに推奨する運動を開始、1985年よりBITNETに加入し、1987年からインターネットに加入した。同センター内には、研究用にVAX6320と事務処理用にVAX4000を設置している。また大学内は構内が500MB、建物内が100MBの電送路敷設を1989年に完成させている。キャンパス内では、DEC−netとTCP/IPの両方を運用していて、Win95上で自由に切替えできるようになっている。通信用ソフトウェアや基本的なアプリケーション・ソフトはセンターがサイト・ライセンスを得て安価に配付している。インターネットのIFASホーム・ページは“ARIGATOR”という愛称で親しまれている。アドレスは次のようである。
 http://www.ifas.ufl.edu/www/agator_home.htm  1994年の公式開設で、現在500ページ以上になる。IFASのスタッフなら、身分さえ公表すれば自由にホーム・ページを追加できるようになっているので、ページ数は常に増殖中している。

4)高度情報化時代へ向けての研究動向
 大学の農業情報処理技術に関する今後の研究は「マルチメディア」の導入、すなわち先端研究は、インターラクティブな処理を前提に、カラー写真、3Dアニメーション、ビデオ、音声等、多様な入出力の実現とその利用ソフト・ウェアの開発であると言う。また、現在、利用されている病気診断、雑草の種類判別、適性品種選択、肥料・農薬選択等にデータ・ベースを知識ベースに置き換えて、ヒット率の向上、AI判別精度の向上を目指している。
 さらに情報電送能力の向上に伴って、遠隔地間で高速、かつ安価にに画像データを転送したり、「電子取引」の実現にも期待されている。加工用豚枝肉の取引にカナダのビデオテックス会社が電子取引を取り入れたのは15年前であったが、当時は解像度やコストの点でその後の広範な普及をみなかった。しかし、後述するが、テキサスでは綿花や子牛の取引に衛星通信によるサテライト・オークションが開始した。今後は野菜、果樹や農機具、農場の売買にも利用の道が開けてゆく見通しである。
 従来の数値データに比べて桁外れに膨大な情報量となる画像データの手元での利用や保管にはCD−ROMの利用が進んでいる。さらにヒューマン・インターフェイスを一層高める観点から、AI技術を駆使した音声認識、画像認識のソフト・ウェア開発も進められている。自然環境保全や農地保全、農村計画に欠くことの出来ない地図・地形情報は、衛星や航空機からモニターした「地図表示情報:GIS」を利用して三次元化、精度向上が図られている。

 6. 農業用パソコン・ソフトの市場、ソフトウェア開発
1)農業用パソコン・ソフト市場
 相対的にソフト・ウェアは安価である(25〜50ドルが一般的)。これは、大学のイクステンションが基本ソフト・ウェアの開発に貢献していることや、大学イクステンションの監視、また業界の市場競争が価格抑制効果を働かせているからである。
 農業経営用ソフト・ウェアの開発に大学普及部がその底辺を支えていることはすぐ後に述べるが、各専門分野の研究成果をソフト・ウェアの形態で農業に還元しようとする考え方は、今やアメリカの大学スタッフのコンセンサスになっている。多岐にわたるソフト・ウェアが大学普及部から手にいる。農業者は、使いたい(購入したい)ソフト・ウェアを大学普及部発行の「ソフト・ウェア・カタログ」から見出すことができる。
 農業用のパソコン・ソフトはやはり農家経営簿記や財務分析、シュミレーション予測等が中心である。アメリカで市販の一般簿記ソフトとして最もユーザーが多いのは“QUICKEN”(価格は約40$)であるが、これが農業経営財務管理用にも利用されている。農家の多くが中小企業の公認会計士、税理士、経営コンサルタントに財務管理を委託しているためである。農業技術に関連した支援ソフト・ウェアにほとんど市販製品がなく、殆どを大学普及部で開発し、販売している。
 カタログ・ションピングが普及しているアメリカでは、パソコン本体の通信販売が普及している。農業用ソフト・ウェアについても、販売数が少ないので店頭販売が引き合わないこと、農業者がパソコン・ショップに出掛ける機会が少ないことから、通信販売が普及している。このため、販売ソフトには必ずデモ・ソフトが添付されていて、デモ・ソフトで性能を確認した上で購入するのが一般的である。なお、パソコンの普及の初期には、農業用ソフト・ウェアを紹介する雑誌も多く出回っていたが、ほとんどが廃刊になったようである。しかし、やはり後述するが、大学普及部が「ソフト・レビュー」を公表しており、農業者はこれを参考にして買う。
 ここでもう1つ特記すべきは、AACC(Association of Agr. ComputingCompanies:農業ソフト開発協会)についてである。大学普及部スタッフ、農業情報関連ソフト会 社、農業コンサルタント会社等を会員とする組織で、農業用ソフト・ウェアの開発に関するスペックや倫理規約を設けている。規約は、ソフト・ウェアの信頼性、機能性、実用性に関するもの、また不正販売を防止した販売方法や利用者教育の方法に関する。上でソフト・ウェアの通信販売に触れたが、消費者(農業者)を保護し、信頼性を高める観点で販売業者は相互規制を働かせている。ソフト・ウェアの開発・販売が官主導から民間の市場競争に移ると、当事者間の経済モラルを維持する努力を払わなければならない。消費者の信頼を得なければ市場を成長させることはできない。この観点でAACCの果たす役割は大きい。もち論、消費者にも義務が課されている。ソフト・ウェアの複製や不正利用は厳しく禁じられていて、ソフトの製造者、販売者は保護されている。

2)知的処理ソフトウェアの農業経営への利用可能性と課題
 近年は地理情報システム(GIS)、グローバル・ポジショニング・システム(GPS)等の利用可能性が脚光を浴びている。GISやGPSによる広域的で精度の高い環境モニター、収量予測、土壌の水分量や腐食量推定等に高い関心が寄せられており、精力的な研究が行われている。例えば、オクラホマ大学と肥料会社の共同で、GISを応用した地域別、作物別、時期別の施肥基準を研究している。同大学の研究によると、効果的な施肥方法を採用した場合、エーカー当たり100$〜300$の肥料代が節約できる可能性があると報告しており、環境保全とコスト節減の双方で高い効果が得られると言う。
 他方、一頃脚光を浴びた人工知能やエキスパート・システム等の知能処理技術は、病害虫診断のようにユーザーに対して直接意思決定支援するソフトの開発には行き詰まりの感がある。フロリダ大学で質問したところ、即座にかえってきたソフト名は“PLANT_IT!−CD”であった。本ソフトは、1993年に完成したものであるが、現在利用できるエキスパート・システムのソフトとしては最も実用性の高いものの1つであると言う。CD−ROM版で、アメリカ国内で植生する1,000種類の植樹用樹木(庭、公園、街路等)がDBとして登録されていて、立地条件とユーザーの希望にかなう樹木をエキスパート・システムで絞り込みつつ選択するソフトである。
 テキサスA&M大学で同じ質問をしたところ、綿花の成長モデルを応用した病害虫発生予察と最適防除法に関するエキスパート・システムCOSSYM/COMAXの開発に長年取り組んでいると言う。しかし、今以て実用システムとして完成していないとのことである。概して、農業分野での知識処理型ソフト・ウェアの製品は限られているようである。
 ただし、最近になって温室内環境の自動制御装置、搾乳ロボット、圃場の自動灌漑・排 水ロボット等がインターフェイスの発達と相まって日の目を見るのは近そうな段階に来て いる。
 テキサスA&M大学普及部コンピュータ利用部部長のL.リプケ教授の「どれをとってみても、農業経営の営農支援に利用するには、実用に耐えうるアローワンス内の処理精度、あるいはコスト・パーフォマンスに課題がある」という回答がアメリカでの大方の意見を集約していた。農業経営に知的処理技術が真価を発揮するのはもう少し先のようである。その理由として教授が第一に挙げたのは、農業経営に役立てる外部情報(データ・ベース等)が時間、空間、費用の制約を越えて入手できる環境が整いつつあるが、知識処理ソフトを開発するための、肝心の知識情報の蓄積がまだ不十分であると言う。
 テキサスA&M大学普及部で紹介された「実用化が目前」であると言ってJ.サントス助教授が紹介してくれた論文は、トマトの収量予測に関する研究であった。しかし、これは従来の数学的モデルによる接近法であった。すなわち、骨子となる予測式は、  Yp =Ym ×Πij(1.0×YRij)
 ただし、Yp :推定収量、
     Ym :最大実験収量
     YRij:成育ステージjにおける因子iが及ぼす減収量、
 各々のiとjに関するYRを圃場実験に基づいて回帰式推定する。YRijの推定式には、4つの成育ステージと8種類の環境・経営因子(技術因子)が考慮されている。すなわち、成育ステージとしては発芽ステージ、栄養成長ステージ、開花・子実形成ステージ、果実肥大ステージの4段階、環境・経営因子としては窒素養分量、燐酸養分量、加里養分量、温度、日照量、水分量、バクテリア・ウイルス感染度、ネマトーダ感染度である。この予測式を35種類の圃場試験で予測精度を確認したところ75%の予測精度であったとの結果を得ている。この水準に到達するまでにはかなりの資金と時間をかけているとのことである。〔紹介してくれた文献は、J.R.A. Santos, A.A. Gomez, and T.L.Rosario, A Model to predict the yield of determinate tomatoes, Horticulture Science, Vol.-50, 1992. 〕。
 ただし、その手法は従来からの数学的シュミレーションの技法である。農業分野の情報処理に固有の問題として、サイト・スペシフィックへの対処、曖昧性への対処に関して課題がある。サントス助教授の、従前のゼネラル・モデルよりは一歩改良されているという返事には著者も同意できる。環境・経営因子を考慮して、サイト・スペシフィック問題へ対処しようとしているからである。しかし、このモデルを現実適用しようとするサイト(環境)や成育状況をどのようにモニターし、どのように定量すするかが考慮されていない。植物成長状況や圃場状態の観測データに付随する曖昧性の扱い、また情報処理過程で考慮しなければならない曖昧性への対処は不十分である。
 テキサスA&M大学普及部での知識処理ソフトウェアの開発に関するヒャリング、および筆者との討議の結果を要約すると次の2項になる。いずれも、農業生産という有機技術を前提にした情報システムの進化への挑戦と捉えている。
(1)極めて微弱信号である生物層の生体情報を如何に栽培技術、飼養技術の改善、持続的農法の確立に日常的に応用できる処理技術。また、膨大なデータ蓄積を前提にするが、複雑な諸相をデータに的確に語らせる“データ・マイニング”技術。
(2)制御困難で、従って観察データが観測誤差、曖昧さを含むことに鑑み、また、経営者の意思決定場面における意思表明の曖昧さ、行動目的の多目的性、行動性格の多属性に鑑み、ファジィ理論、カオス理論、多目標理論等を取り入れた処理技術。
 しかし、これらの高度情報処理技術が花開くには、さらに膨大なる時間と人的投資が必要な見通しである。

3)テキサスA&M大学の農業経営者支援ソフトウェアの開発
 農業経営者をユーザーとするパソコン処理ソフトを開発している大学とそうでない大学がある。実際、今回訪問した大学で、コーネル大学はパソコン・ソフトを開発していない。他方、テキサスA&M大学やフロリダ大学では、普及担当スタッフが精力的にソフトウェア開発を行っている(パデュ大学やミネソタ大学も)。そして、普及部とは異なる部署になる大学の“Software Distribution Center”がソフトウェアの販売を担当している。
 大学がソフト・ウェア開発する意図は、最先端の大学の研究成果を普及活動に反映させることにあり、良質のソフト・ウェアを安価に提供する。テキサスA&M大学やフロリダ大学のソフト・ウェア・カタログを参照すると、概略25$〜150$で、州外販売には5$のプレミアムがついている。
 良質のソフト・ウェアを提供するという点では、大学で開発したソフト・ウェアと言えども所定の評価手続きをクリアーしたのもが、公開されるようになっている。それはソフト・ウェア・ディストリビューション・センターの重要な任務になっている。テキサスA&M大学の場合は次のような手続きを経る。
(1)完成したソフト・ウェアを普及部に仮登録する。
(2)学内の講義に利用したり、諸行事にデモストレーションし、改善の余地のあるものは改善するし、バグを除去する(ソフトウェア・レビュー期間)。
(3)1年後にマニュアルを添えて正式登録申請する。
(4)普及部編集委員会の審査に合格したものを登録ソフト・ウェアとして承認する。
   (審査は“マイナー・テスト”と表現されている。決して、公開を規制するような 意味の内部審査ではない)。
 農業者は電話注文、E−mail注文して、郵送やファイル転送で希望するソフトウェアを受け取ることができる。
 参考に、テキサスA&M大学普及部発行の95年度版ソフトウェア・カタログ〔Texas Agricultural Extension Service, Software Catalog, 1995. 〕から公開・販売されているソフトウェアを処理分野別に分類して概略紹介しておこう。
(1)灌漑管理ソフトウェア        3本
(2)病害虫判別・管理ソフトウェア   22本
(3)水産業・漁業ソフトウェア      6本
(4)気象・干ばつ被害予測ソフトウェア  7本
(5)家畜管理ソフトウェア       23本
(6)農機具利用コスト管理ソフトウェア  2本
(7)家庭経済管理ソフトウェア      2本
(8)経営財務管理・経営計画ソフトウェア 5本
(9)ユティリティ・ソフトウェア     2本
なお、上記ソフトウェア・カタログを参照するための同大学のE−mailのアドレス(URL)は次の通りである。
 http://leviathan.tamu.edu:70
 一方、市販ソフトを購入しようとする場合でも、農業者は大学の専門家が吟味して各市販ソフトの内容、特徴、評点を示す普及部発行の「ソフトウェア・レビュー」を取り寄せ、これを参考にして選択するのが通例である。一例として、テキサスA&M大学の簿記ソフトのレビュー〔Texas Agricultural Extension Service, Financial Record-KeepingSoftware Review, 1995. 〕を紹介すると、主要な市販ソフトの概要、使い勝手、価格、サポート・センターの住所等を解説した後、各評価項目を立てて、これに対する(Yes/No)形式で評価一覧を示している。ここに、その評価項目の大項目だけを列挙しておこう。
(1)コンピュータに要求するスペック、
(2)ソフトウェアの主要な処理目的と特徴、
(3)元帳の仕分け機能性、
(4)出力帳票の種類、
(5)税金管理機能、
(6)各種勘定項目の処理機能
(7)その他の処理機能、
(8)表計算ソフト等とのデータ互換性、
(9)インストール、セットアップ機能、
(10)サービス、パックアップ体制、
等である。これらソフトウェア・レビューは公正中立で大変権威あるものと見做されており、健全な農業経営ソフトウェア市場の育成に寄与している。
 なお、アメリカ農業エンジニァ学会(American Agricultural Engneer Association )と各大学普及部の共催で、「農業普及活動におけるコンピュータ利用」(Computer-uses for Agricultural Extension)という国際会議が毎年北アメリカのどこかで開催されている。新作の農業経営支援ソフトウェアを発表し、そしてデモする。また、この会議冊子から農業用ソフトの最新情報が得られる(96年は6月にメキシコで開催予定)。
 テキサスA&M大学普及部が開発したソフトのベスト10の1つに、後述する“IRM−SPA”(Enterprise Production and Finance Integrated Resource Management−Standardized Performance Analysis:農企業経営総合的資源管理・標準診断分析ソフト)がある。その作成者である先のマックグラン教授は言う。「営農情報の基本となる財務管理ソフトには3種類(段階)ある。簿記記帳ソフト、財務諸表作成ソフト、そして経営診断・計画ソフトである。しかし、市販でペィしているのは簿記記帳ソフトでは“Quicken”、財務諸表作成ソフトで“Mind Your Own Business”等2〜3種類で、農業経営管理用の部門別診断・計画ソフトともなると大学普及部で開発するしかない。」〔蛇足ながら、アメリカがクレディト・カード利用国だからであるが、Quickenは、American ExpressやVISA等のカード取引データをCompuServe等から直接取り込むことができる。〕
 「なぜなら、商業ベースに乗せるには最低5万本以上売れなければならない。とても、農業経営管理用の部門別のそのようなソフトで商業ベースに乗せることは不可能である。SPAはパソコンの機種、OSに制約を受けない製品にして(DOS版とWINDOWS版がある)販売しているが、これですらせいぜい4千本に過ぎない」と。なお、SPAの価格は100ドル、保守サービスと電話相談は無料である。
 さて、そのSPAは酪農・肉牛育成経営用、そして穀作経営用が用意されている。現在はバージョン6.1に至っている。同ソフトは農業簿記・会計学専門のマックグラン教授をリーダーとしてして、テキサスA&M大学普及部のみならず、U.S.D.A.、オクラホマ大、コロラド大、ネブラスカ大、アイオワ大等の技術部門の専門家を含む開発チームを組織して開発してきたソフトウェアである。酪農・肉牛育成経営用SPAは、この開発チームの上位組織として全国の生産者の代表と大学、農務省、そしてNCA(National Cattlemen’s Associaton:全国家畜生産者協会)から構成された企画開発委員会がある。つまり、産官学挙げて取り組んできたソフトウェアということになる。
 ソフトウェアはLotus1−2−3上で作成されたもので、スプレッド・シート用の専用コンパイラーであるBalerTMで編集されている。ソフトウェアはデータ互換性が保たれた生産分析用サブ・ソフト(SPA−PCC)と財務分析用サブ・ソフト(SPA−FCC)の2つから成り、マスター・ソフトがこの全体を管理する。データ・ファイルは生産者ファイルと西暦年ファイルが常にペァになって管理されている。主記憶640kb、ハード・ディスク容量2MBの小型パソコンで動作する仕様の下で作成されている。起動させるとLotus表が画面に表れ、メッセージに従って記帳、および分析操作を進める。もち論、ファンクション・キィへの機能の割当てやオンライン・ヘルプが用意されているので、コンピュータ操作に知識がないユーザーでも直ちに利用できるようになっている。
 本ソフトウェアの特徴を整理しておく。
(1)マックグラン教授が最大限に強調したことであったが、分析概念の標準化、従って分析に用いる数値、計算式、解釈の統一化がなされている。SPAがソフト名に「標準」という用語を使っているのはそのためである。そのマニュアルになっているのは、アメリカ財務分析標準化委員会(Financial Accounting Standards Board)の「財務分析標準規則」(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って「農業経営財務分析標準化会議」(FFSC:Farm Financial Standards Council)が、その農業経営版として作成した「農業経営財務分析標準規約」(FFSTF:Farm Financial Standards Task Force)である。標準規則を採用することで、農業者に正しい簿記用語の理解を与えるとともに結果表の解釈における混乱を解消する努力がなされている。納税申告書用としてもオーソライズされている。他のソフトによる診断値との比較が可能である。
 その他にも筆者が高く評価したい点が沢山ある。
(2)作目部門別にサブ・ソフトが用意されている、
(3)定期的にユーザーである農業経営者、そして会計士、税理士の専門家、銀行、他の類似ソフト取扱業者を呼び、トレーニング・コース、ワークショップ、モニタリングを実施してソフトウェアの普及とバージョンアップを図っている、
(4)診断指標の標準値、目標値等が既にファイル入力されている、
(5)マニュアルは原則としてテキスト・ファイルで用意されている(普及員用とユーザー用がある)、
(6)ソフトウェアを使う前の簿記の知識を習得するために、練習用ワーク・シートが用意されている、
(7)ソフトのオンライン・ヘルプ機能はもち論であるが、大学に常に2名の電話相談員(学生アルバイト)を待機させている、
 要するに、本ソフトの開発上のコンセプトは、「パソコン操作上のユーザーへの負荷は可能なかぎり軽くし、処理している内容や結果解釈等はしっかり勉強してもらう」であると語彙を強めてマックグラン教授は言う。

4)アメリカ農務省のソフト・ウェア開発支援
 アメリカ農務省が目指している農業政策の基本は、より一層市場指向型産業である。財政援助を伴った農業政策はその位置を低下させている。その代わり、経営能力(Skillness)向上支援やそれを間接的に支援する情報化推進を重要な農業政策として位置付けしている。農務省内の情報化推進の体制は、ERSのような統計書作成や各種レポート報告の部署、そして大学普及部を統括する部署であるCRES(Cooperative StateResearch, Education & Extension Service )に大別されそうである。
 前者は大学や地方行政機関、民間団体等にオリジナル情報を提供する。後者のCRESは、USDAと大学と全国の市町村を構成メンバーとする“Cooperative Extension System”を形成している。ここで普及活動の方針や予算が検討され、連携して活動する。
 CRESの情報化推進に関わる現在の主なプロジェクトは次のようなものである。
(1)大学との共同でソフトウェア、CD−ROM、ビデオ・ライブラリー作成支援
(2)郡普及所のコンピュータ・スペシャリスト養成支援
(3)農業経営者のコンピュータ利用技術、経営管理への情報利用の教育支援
 上の(1)に関して特筆すべき事業について言及しておく。1つは、LISA(最小投入持続的農業)を普及させるためのソフトウェア“PLANETOR”をミネソタ大学普及部と共同開発している。現在は1995年に完成した“PLANETORII”が提供されている。LISAを実践する場合の経営分析・計画ソフトで、採用する営農技術の自然環境の保全/劣化と収益性のトレード・オフを試算分析するソフトである。
 2つ目は畜産情報データ・ベースのCD−ROMについてである。ウィスコンシン大学酪農経営研究センターとの共同プロジェクトである。畜産技術が早いテンポで進歩していること、専門化が進んでいることから、現場普及員のための指導用辞典を目的としている。酪農DB(NDD:National Dairy Database )と養豚DB(NSWD:NationalSWine Database )が1990年に完成している。タイトル検索、用語検索、人名検索等が可能である。現在は1992年に改定したバージョン2.0を供しているが、この時、CD−ROMでの製品化に踏み切った。農業者の直接利用も視野に入れてのことである。1996年にはWindows版のV3.0をリリースする予定になっている。値段も従来の99$を45$に値下げする。なお、1996年には、肉牛、綿羊・山羊、淡水養魚、海洋漁業、飼料作物のDBも市販を開始する。
 3つ目は、コーネル大学附属図書館との共同によるUSDA電子図書館システムである。これについては後段で説明する。
 なお、現在、USDAが掲げる大きなプロジェクトとして、1983年から始まった“Info−Share”がある。これは、USDAの縦割り組織の弊害で、地方出先事務所や農家にとって、二重、三重のデータ収集とデータ(情報)提供のダブリがある無駄と煩雑さを省くために、データ収集、提供システムの部署間の連携性を高めようとするものである。大胆な行政機構の改革とも連動している。

 7. コーネル大学の農業経営診断分析サービス
 コーネル大学はテキサスA&M大学やフロリダ大学のような農業経営者支援用のパソコン・ソフトの開発は積極的に行っていない。既に質の高いソフトウェアが出回っているとの考え方に立っている。(コーネル大学では、比較的、農業条件の類似するパデュー大学で開発されたパソコン・ソフトを斡旋販売している。)その代わり、ここでは農業経営診断分析のサービスを行っている。この種の事業は、かつては大学普及部の中心的活動であったが、現在は多くの大学が財政事情からその規模を縮小したり、取り止めている。(テキサスA&M大学普及部が上述の財務管理・経営分析ソフト・ウェアの開発に取り組むこととなったのは、大学が直接分析サービスを行わない代わりに、農業者が自らそれを行えるようにすることとしたのが1つの理由である。)コーネル大学は、ミシガン州立大学、ミネソタ大学等と並んで現在も重要な事業として経営診断分析サービス事業に取り組んでいる大学である。
 コーネル大学では普及部が酪農経営とリンゴ園経営を対象としている。記帳は経営者の分担で、この記帳データから経営診断分析サービスを行い、分析農家の経営改善に直接役立てている。同時にこのデータは各種普及指導活動にも活用している(著者の知る限りでは、ミシガン大学でもこの種のサービスを行っている)。
 コーネル大学では本事業に1970年から本格的なコンピュータ処理システムを取り入れている現在は酪農経営の394戸、林檎園経営の20戸を処理している。参加は自由であるが、源データ研究活動や普及活動に利用することが条件である。酪農経営の場合、現在の分析農家の72戸が1年以上継続している農家であり、経営発展の分析視点から極めて重要なデータ・ソースになってる。現在、コンピュータ・ファイルで保存されている分析農家戸数は11.700戸にもなる。
 データの収集方法は、大学が作成したワーク・シートに分析農家の経営者自身が記帳する。郡普及所のカウンティ・スペシャリストが毎月訪問し、記帳を支援する。ワーク・シートは半年単位で大学に送られ、専任職員がコンピュータ入力する。酪農診断分析サービスの場合、大学スタッフの5名、郡普及所スタッフの計30名がデータ処理に携わっている。
 分析は世界的に定評のある“コーネル方式”という伝統的な経営分析法に則って処理されている。現在はDBソフトの“PARADOX”と大学で開発したデータ・チェック機能も有する“MICRO−DFBS”(Microcomputer Dairy Farm Business Summary )と称するパソコン・ソフト、表計算ソフト“LOTUS”の組み合わせで処理している。これによって、現金収支表、貸借対照表、損益計算書、経営改善進捗度分析書等の10種類の財務分析と生産技術分析がなされ、分析農家に報告される。また、“New York State Business Summary”なる年次報告書として公表され、大学の研究・教育、郡普及活動、州政府の現場活動に利用されている。

 8. 新しい情報媒体、情報通信システムの進展
1)インターネットの利用
 アメリカの農業情報化の進展という観点で明白なのは、インターネットの利用である。インターネット利用には閉じた社会も国境もない。インターネット網が重視されるのは、通信の相手に隔てなく多様な情報をいとも簡単に交換することができることにある。テキスト・データだけではなく、鮮やかな画像データ(イメージ、静止画、動画)もサウンド・データも交換できる。しかも、従来のメディアに比べて安価にである。従来の情報交換は味気がなく、一定水準の情報リテラシィを習得した者のみが利用できる“特権的”な情報交換の手段であったのに対して、利用可能性と、利用者層の拡大に飛躍的な変革をもたらしたと評している。
 後述するコーネル大学の「インターネット電子図書館」はその大きな成果である。
 フロリダ大学IFASの昆虫学の研究チームの活動にインターネット活用例を見た。同チームは現在FDで昆虫の種類別にリリースしている「世界の農作物害虫図鑑」のインターネット版ホーム・ページを作成中である。本ソフトは、主要作物別に害虫と被害状況を図説し、これに対する「総合的防除法」(Integraged Pest Management)が解説されている。つまり、栽培予防法(Cultural Control)、植物的予防法(Biological Control)、農薬防除法(Chemical Control)を示している。
 誰でもが操作でき、また内容を理解できるようにメニュー式で、オンライン・ヘルプ機能を有する、写真・イラストを利用して画面に引きつける。さらにIFASだけでは把握しきれていない害虫に対処して、各国のユーザーがカスタマイズできるようになっているし、クイズ/スコアリング機能が加えられていて教育にも利用できる。つまり、生態系や技術水準の異なる世界各国で利用できるシステムを目指している。
 このホーム・ページの開発者の一人であるT.ファスロ教授は、今後は世界的な規模の病害虫の発生・感染動態シュミレーションを開発し、その情報をこのホーム・ページに掲載したいと抱負を語った。それには「ケース・ベース」(Case Base)アプローチを採用する計画であるとも言った。今後の高度情報処理技術の1つの有望分野と目されているケース・ベースについて、今回のアメリカ調査期間中、耳にしたのは後にも先にも同教授のみであった。
 なお、同種のホーム・ページがあちこちに散逸して存在するのはカスタマーを混乱させるだけであるから、インターネットだから個人が勝手にホーム・ページを作ればいいというのではなく、オーソライズされたホーム・ページに系統的に掲載してゆくことを各専門分野別に世界的な規模で考えて行かなければならないと同教授は強調した。
 インターネットのもう1つの利用方法は、その通信システムの簡便さを最大限に利用しようとするもので、旧来のコンピュータ・ネットワークを、地方のプロバイダーを介したインターネット接続方式に置き換えようとする動きである。その動きは、USDAと大学の研究機関ネットワーク網と、大学普及部を中心とするイクステンション・ネットワーク網に見た。前者のUSDA−州政府−大学−大学の地方試験場はインターネットに完全に移行している。また、大学の普及部−郡普及所−農家の系列も、既に述べたように、かつては大学普及部に専用のメイン・フレームを置き、主要な郡普及所と専用回線で網を形成していた。しかし、現在は地方にインターネット・プロバイダーがサービスを開始したことで(1994年の利用料金相場は約100$/月であったのが、1995年末には30$/月にまで低下した)、インターネット利用に急速に移行している。
 各大学普及部はインターネットのホーム・ページ、メール・ボックス、FTPファイルを持ち、メール交換はもち論、Netscape/WWWによって、普及所、および一般ユーザーのさまざまな画像情報要求、データベース検索に供している。以前は大学普及部のホスト経由であった各地の大学試験場、他の大学へも直接アクセスできるようになり、大学を中心に形成されていた州閉鎖型情報通信網(日本ほどの閉鎖型ではなかったが)は消滅した。
 フロリダ州の中部に位置するレイク・カウンティ普及所を訪問した。フロァーにはコネクターが設置されており、所長以下全スタッフに各1台配備されているパソコンがLAN接続している。郡普及所の2〜3か所に1人の割合で、“District Computer Support ”というコンピュータ管理と情報処理支援担当のスタッフが配置されている(センター内職員と農業者のどちらにも対応する)。年数回の講習会を開催している。普及所で使用しているコンピュータもソフトウェアも特に統一はしていないが、通信メニュウ・ソフトは大学で作成したものを利用していた。
 インターネットの普及で、それぞれがどこまでも情報を求める行動が可能になったが、情報がインターネット上に公開されていなければそれも意味を成さない。技術普及、経営指導の元締めであるUSDA普及サービス部(CES)は、さまざまな政府刊行統計書、図書をインターネット上に用意している。アメリカ農業年次統計書に掲載される統計、農業センサス、“Situation Outlook”等の定期刊行報告書が無料で参照できる。興味ある情報の一つにUSDAが指定の大学に「政策分析センター」を置き、農業政策の効果予測や政策評価の研究を依頼しているが、その報告書も一般に公開されている。以前は国会議員とUSDAスタッフだけのものだったそうであるが、現在は一定期間の後、インターネット上に公開されるようになった。

2)CD−ROMの普及
 インターネットに目を奪われがちであるが、CD−ROMの利用も非常に進んでいる。USDAのセンサスはCD−ROMで販売されているのは周知の通りである。フロリダ大学には「教育用メディア製作所」(Educational Media Service)があるが、ここでは大学普及部活動用、成人教育用(一般向け)のテレビ番組制作、教育ビデオ制作、農家向け雑誌類とCD−ROMの製作を担当している(テレビ番組は、公共放送のPBSに売っている)。
 CD−ROMの制作を開始したのは1990年からである。そこに至る経緯をA.ワイナ技師はこう説明した。1970年代は、普及活動支援を目指して、大型コンピュータを使って巨大なコンピュータ・シュミレーション開発を試みたが、シュミレーション予測のコスト・ベネフィット、操作性等の点でどれも中途半端であった。1980年代になってからはハイパー・テキスト技術が応用できるようになったが、作成支援ツールが不十分であったことや、応用分野の研究が貧弱だったため、ケース・スタディ的にデモ・ソフトを作成して終わった。1980年代の後半になると、Expert Systemの開発が注目されたが、知識不足、データ不足から限られた分野での成功に留まった。こうしたソフトウェア開発の歴史を辿って今日迎えている段階が、CD−ROMに大量の画像、音声データを詰め込んだ教育ソフトウェアの開発であると言う。
 現段階では、CD−ROMはインターネット利用よりもコスト安で、操作が簡便、画像情報が大量にある場合にはアクセスが早いという利点がある。しかも、農業分野では将来的にも農家段階でのインターネット利用は少ない。これらの理由から、同製作所では、アニメ、動画写真、音声をふんだんに取り入れて人目を引く数多くの教育用ソフトやデータベースを作成、販売している。既にリリースしているCD−ROMは、先述した“PLANT IT!−CD”、“FAIRS CD−ROM/Multimedia Data base”、その他33種類もの“課題別Extension Handbook”である。
 CD−ROMは視覚、音響も重要なため、従来のコンピュータ・ソフトの専門家だけでなく、AV教育専門家との共同制作であるという。また、その学際的な研究ニーズに応えるために、“Agricultural Communicators in Education”という専門学会を組織している。もち論、CD−ROM作りに特化しているのではないが、この学会メンバーが効果的な農業者用CD−ROMのデザインに関する研究を行っている。

3)コーネル大学のインターネット電子図書館
 農業分野の文献検索データベースとして古くから“AGRICOLA”が親しまれてい るが、最近、コーネル大学農学部の附属図書館(Mann Library)にUSDA の委託を受けてジョイント・プロジェクトとして完成させた「電子図書館」がある。WW W、Gopher、FTP、TelnetのいずれからでもUSDAデータにインスタン ト・アクセスできる。附属図書館のWWWホーム・ページ・アドレスは、
  http://www.mannlib.cornell.edu
である。初期メニューの「USDAライブラリー」を開けばよい。USDAの次の3つの 統計関連部局が公表している情報を参照できる。
(1)ERS(Economic Research Service )、
(2)NASS(National Agri. Statistics Service )、
(3)World Agricultural Outlook Board、
データ情報(Data Sets)と文書情報(Reports)の2種類がある。データ情報も文書情報も上の3部署がこれまでプリントして配付してきた馴染みの農業生産、農産物市場、農産物貿易、農村に関する統計書や調査報告書である。検索したデータはLOTUSかEXCEL上で参照でき、またレポート(Situation & Outlook等)はテキスト・ファイルになっている。なお、USDAの統計書名、農業図書名、農業関係機関名や人名検索もできるようになっている。
 AGRICOLAやDIALOGUEのオンラインDB検索もここからアクセスできる。ついでながら、コーネル大学のシラバス、学生のレポート提出、学生と教官のQ&Aも上記のMann−Libraryのホーム・ページにあった。24時間利用でき、ダウンロードできる利便性から、アメリカ全国の大学教官、学生、そして普及部スタッフ、あるいは農業者、関係者に広く利用されている。

4)テキサスA&M大学の電子会議室ネットワーク
 テキサスA&M大学には地方の付属研究所とのネットワーク網を利用した「多方向電子会議室ネットワーク」(TTVN:Trans−Texas Videoconference Network)が運用されている。“T1−line”規格の回線によるもので、データ通信に768KBを割りつけ、残りの768KBを2ラインに分割して電子会議室用に利用している。テキサス州内の20か所の大学施設、州政府機関に44室の電子会議室(うち、College Stationのメイン・キャンパスには10室)が設置されている。
 アメリカの伝統ある州立大学にとって、農業普及部は地域に対する重要なサービス活動部門であるが、それと同程度に重要な地域に対する活動が教育放送部(Educational Broadcast Services)である。テキサスA&M大学のテレビ・ラジオ教育番組放送事業(Educational Broadcast Services、コール・サインは“KAMU・TV/FM”)は同大学教育放送部の最も中心的な事業であることは言及するまでもない。しかし、同部は、この教育放送事業を拡充する形で、教育用オーデオ・ビデオ番組の制作と貸出(販売)、教育番組の衛星放送(全国向け)、そして1990年から多方向通信型の電子会議型システム(Multi−way digital videoconference)を開始した。
 大学が運営する電子会議室システムとしては全米最大規模のものであるが、学内・学外の電子会議室システムを稼働している大学は、アイオワ州立大学、スタンフォド大学、ペンシルベニア州立大学、ワイオミング大学、北コロラド大学である。本システムを創設した背景は、テキサス州が地理的に広い面積を有することにあるが、各種遠隔地間の会議のみならず、遠隔地教育に利用しているのが大きな特徴である。
 事業実績報告書によると、1994/95年には3,200回の電子会議を開催しており(スタジオ延利用回数は8,600回)、その2/3は大学の秋期、春季・夏期コースや社会人向け公開講座(University Telecourses)で、124科目の講義に利用された。近年、社会人教育が重要になっているが、第1の利点は、大学キャンパスから遠隔地に立地している職業人は最寄りのスタジオ・クラスに出席すればよいことである。第2の利点は、社会人教育は非常に専門化した教科目の講義を要請されるのに対して教授陣が不足している。教授陣をいちいち現地に派遣していては十分な回数のクラスを開講できない。遠隔地テレ・コースによって、効率的な講義スケジュールを立てられる。
 受講生の利便制、教育する側の効率性から、非常に有効な講義手段になっており、テレ・コースの需要は年々高まっていると言う。しかし、電子会議室システムの講義は、やはり受講できる場所に制限があることには違いない。今後はその制約のない衛星放送システムの拡充も目指すという(ただし、現在の衛星放送システムでは双方向型にならないという欠点もある)。

5)原料綿花の電子オークション・システム
 カナダには“グラス・ルーツ”というビデオテックス網でアルバータ州を中心にした地域の肉豚電子オークションが1970年代の早い時期から実施されている。生産地がカナダ以上に広域なアメリカでも肉豚、肉牛の売買に電子オークションを導入しようとする試験は行われているが、「需要域・供給域が広域なことが返って障害になって関係者間のコンセンサスを得られ難い」というのはテキサスA&M大学のC.アンダーソン教授である。
 最近になって、本格的な原料綿花の電子オークションが始まった。“TELCOT”と言われる原料綿花の電子オークションである。オークション端末はテキサス、オクラホマ、テネシー、ミシシッピー、N−カロライナ等の南部の綿花産地の各地に散らばる出荷組合に配置されている。また、全国の綿花バイヤーも同じ端末を保有する。CRTに製品のビデオ写真が映し出され、品質規格や農場名が表示される。最初に買い手と生産者の双方が価格を提示する(Bid Offer)。双方の価格が食い違った場合、生産者が15分以内に販売の意思は販売量を送信して(Farm Offer)売買が成立する。
 電子オークションが可能なための第1の前提条件として、生産物の品質の標準化がなされていることである。原料綿花は生産者農協が品質検査を行っているが、厳密な品質評価基準があり(色調、長さ、強さ等による組み合わせで、国際標準になった15段階のグレードがある)、機械検査による公正な品質評価するシステムが確立している(連邦法によって、1ベールにつき2サンプルを抽出して検査しなければならない)。まさに第1の条件が満たされている。
 第2には生産者、購買者の双方の全員が参加することである。全国、あるいは国際的な需給実勢を反映した価格が形成されなければならない。そのためには本システム加入費が安価で、かつシステムに加入する経済的メリットを得なければならない。
 第3は、買い手が健全な経営をしており、代金清算等にトラブルを発生させる可能性がないことである(第2項と矛盾するが、買い手には参加資格を設けているという)。  アンダーソン教授は、TELCOTの運用によって生産者も購買者も確実にメリットを獲得しているという。教授が列挙したメリットのは次の点であった。
(1)物理的なオークション市場を必要とせず、商品を搬入する必要もないので、私的にも社会的にも取引にかかる経費が節約される、
(2)価格情報が正確に迅速に買い手、売手に伝達されるので、公正な競争が保障される、
(3)小口生産者や小口購入者も価格形成に直接参加できるので、より正確に需給実勢を反映した価格形成が可能になる、
(4)物理的に市場を開設していた過去には、市場の混乱を避けるために市場売買参加者を制限していたが、本システムができたことで、バイヤーにとって遠隔地であることは障害にはならない。システムに加入さえすれば購買できる。これを生産者の側からみると市場の掘り起こしになるし、バイヤーは直接買い付けできる。ブローカーを介する必要がなくなり、流通コストの節減になる。
 蛇足ながら、教授が、この電子オークションは日本の米や肉牛、加工野菜の販売にも応用できるのではないかと提案してくれたので、「日本人は味覚、舌触り、鮮度を大切にしているが・・・・」と質問したところ、そのような品質基準を客観評価する方法を確立するのが先決であるとの意見であった。

6)フロリダ大学の野菜、果物価格の音声市場情報システム
 アメリカの青果物は、日本のような卸売市場販売ではない。生産者、集荷業者、卸売業者は個々に相対取引するか、契約生産・販売である。従って、生産者は各々が市場情報を収集しなればならないのであるが、現行ではUSDAの郡事務所が生産者や関係業者から売買価格、出荷量をヒャリングし、コンピュータ回線でワシントンに報告する。それが全国集計されて再びUSDAの郡事務所から地域別、時間別Daily Reportとして報告される。関係情報会社、マーケッテング・コンサルタント、大学普及部等に対して市場情報を公表するゲイト・ウェィであり、“Computerized Market News”と言われるものである。
 しかし、このシステムが公表する市場情報の内、リアル・タイム市場情報については、如何に早く入手できるかは極めて重要な関心事である。その1つの方法としてフロリダ大学ではUSDAに発信する前の生データを“横取り”し、インターネットのホーム・ページで見ることができるようにしている。これがフロリダ大学の「野菜、果物価格の音声市場情報システム」(VMIS:Voice Market Information System)である。アドレスは、
  http://gnv.ifas.ufl.edu/MARKETING/menu/nwls.htm
である。フロリダ州内の市場情報に限られるが、関係者は以前よりは早く情報を入手できるようになった。
 しかし、アメリカ有数の野菜、果物の産地であり、しかし消費地から遠隔に立地するフロリダの生産者にはまだ物足りなかった。常時送られてくるデータをコンピュータ入力する時間と手間がかかる。そこで、リアル・タイム市場情報は現場での音声入出力システムとしたのである。USDAに報告する前の州内各地の市場情報を大学で受信し、直ちに音声に変換して、電話回線によるボイス・サービスを行うものである。カスタマーはメニュウで「Voice」を選択するとコンピュータのボイス・システムで報告される。コンピュータ録音もできる。ボイス・システムを持たないコンピュータの場合には側の電話の受話器を取ればよい。電話が自動ダイヤルされて音声で報告される。
 このインターネット・サービスでは、従来のファイル化した市場情報データ・ベースについては、グラフ表示したり簡単な価格分析ができるようになっている。E−mailで大学の専門家による動向分析をニュースとして公表している。また包装した状態での商品の写真表示をしている。さらに、カード型DBの市場情報データ・ベースはCD−ROM化して販売もしている。6ヵ月毎に更新して新しいCD−ROMでリリースしている。

7)農業経営情報の衛星通信システム−DTN−
 ネブラスカ州のオマハに本社を置く民間企業の衛星通信農業情報会社がある。DTN(Data Transmission Network Corporation)である。衛星回線で農業・農村のリアル・タイム情報を配信サービスする。インタビューを始めると開口一番に「わが社は、シカゴの市況を2秒後にカスタマーに届けている」とPRした。アメリカの国土条件、そして農村部まで高速通信回線を張り巡らすにはコスト的に困難な農村、先物取引を行っている慣習からスピーィディな市況の取得ニーズの高いアメリカの農村情報ネット・ワークとして衛星通信システムを見逃すことはできない。
 当社の合計端末数は95年1月現在で93,000台、この内80,000台のカスタマーが農業者、および農業法人で、残りが穀物エレベータとその他の物流会社である。また2,500台がカナダで、500台がメキシコで受信されている。なお、アメリカには、農業者向けの類似の衛星通信システムとして、同社の他にFARM−DATA、ACREがある。
 オマハには全米一の小麦市場が開設されている。DTN社を創業した母体は穀物エレベーター会社である。社長自身が市場情報の重要性を十分認識していたので、当時は自社のための効率的な市場情報の入手方法を模索していたのが、社外の第三者への市況情報販売サービス業へと展開した。創業は1984年で、創業時の会社名は“DATA LINE”であった。情報配信の方法も、創業時はFMバンドでのラジオ放送であった。カスタマーは専用のチューナーで受信したが、受信エリアが半径50マイルまでのために送信局の新増設コストがネックになって行き詰まり、衛星通信システムに切り換えた。1987年であるが、その時、親会社から完全独立して再出発した。送信能力が飛躍的に高まり、その後、さまざまな情報を取り扱うこととなる。
 DTNは、衛星通信で全国各地から24時間データを受信・配信している。その情報は、シカゴ商品取引所からの各種市場情報、気象情報会社からの気象情報、農業専門ニース通信社からの国内・海外の農業に関するニュース、穀物メジャー、種子会社、肥料・農薬会社からの技術情報、資材情報等である。第3者であるマッケッテング・コンサルタント会社の野菜、果物市況、畜産物市況、気象情報、グレーン・エレベータ会社や市況ニュースの委託配信も行っている。もち論、これらは契約に基づく配信である。
 気象情報に至っては、国のNational Weather Serviceの他に、民間3社(CROPCAST、WSC、Kavouras)の発表する気象情報の配信サービスを行っている。これら民間会社の気象情報はなかなかきめ細かい。例えば、WSC社 (Weather Service Coop.)のCrop Weather Forcastは、とうもろこしの生育に重要な“Heat degree days”の他、30日雨量、耕土中温度・湿度、作物中湿度指数等も公表している。これらは穀作農家にとって重要な情報であるが、USDAや民間マーケッテング・コンサルタントにも、生産予測や価格予測に重要なデータとして活用されている。
 情報の収集側をみると、DTNが直接収集する情報、そして専門の情報元売り会社から購入する情報(USDAから入手する情報は無償)、さらに情報を売る別会社の配信サービス業務の受託である。なお、現在は農業関連情報だけでない。CNNのTVニュース、ウォール・ストリートの株式市況、中古自動車・農機具販売会社の商品情報サービス、原油の元売り相場等、農家向けから農業関連産業へ、さらに一般ビジネスへと顧客層を広げている。
 契約農家にはパラボラ・アンテアと専用端末“ACE”(Advance Communication Engine)をリースする。だが、ACEは、通称、“DATA BOX”とんでいる。理由はコンピュータのイメージを払拭するためである。さらに現在のDATA BOXはカラー表示であるので“COLOR BOX”とも呼んでいる。全て当社が開発した製品である。
 操作は、基本的には電源投入して番組をメニュー選択するだけであり、テレビ感覚で情報が得られる。画面はズーム機能を有するウインドウ・システムで、テキスト・データだけでなく、グラフ表示もする。“Personal Libraly”というページ・イメージの記憶装置、グラフィックのダウン・ロード機能、ハードの自己診断機能を有する。一ヵ月当たりのモデム込みの賃貸料は、6000シリーズ(80MBのハード・ディスクを持つ)が46$/月、7000シリーズ(170MBのハード・ディスクを持つ)が56$/月である。
 DTN衛星通信システムの売り物の第1は迅速な情報配信である。シカゴ穀物取引所と本社は光ケーブルで接続されている。シカゴ市場情報は、実物取引は日ベースであるが、先物取引は15分間隔で契約カスタマーに配信されている。問題はそのスピードである。スタンダード契約なら商品取引所がリリースして15分後にDTN回線で公表するが、月50$付加の特約者には2秒後に届ける。なお、DTN自体は価格予測等のデータ分析は行っていないが、マーケッテング・コンサルタントは契約カスタマーに対して予測結果や解説、アドバイスをDTN回線を通じて配信している。
 第2に、当社の基本的な製品開発戦略に基づくものであるが、「情報収集にはコンピュータの知識を必要としない」ということである。現在の情報収集はコンピュータ知識を不可欠にしているが、当社の開発する端末はテレビ感覚の操作で、しかも24時間自動受信できることにある。
 第3番目に、会社側にとっても利点にあるが、サービス・エリアがアメリカ、カナダ、メキシコと広範である。イニシャル・コストは高額ではあるが、利用者の普及によってユーザー・コストは低下する。国土が広大なアメリカでは、この衛星通信方式が急速に普及してきている。当社の現在の受信端末数は10万戸であるが、5年後に25万個を予測している。ただ、現在の衛星通信方式には双方向性がないのが大きな欠点である。

 9. むすび
 アメリカの「高度情報化農業」なるものの水準、その背景をまとめた。調査期間の制限から、「高度情報化農業」の農業経営への効果までを展望するに至らなかったが、わが国農業の今後の「高度情報化農業」のあるべき姿を展望する素材となれば幸いである。
 アメリカでも農業経営に本格的なコンピュータ利用が進展してきた歴史はまだ10〜20年程度でしかない。わが国との比較で特別に相違があるわけではないが、その導入期において、大学普及部がソフト・ウェアの開発、農業者に対する情報リテラシィ教育と普及に大きな役割を担ってきた。最初から全てが民間主導ではない。当時、大学が、酪農の乳牛検定事業や農業経営簿記・経営診断サービス事業に直接携わってきた実績は言及するまでもない。また、数々の情報処理ソフト・ウェアを開発し、民間会社の育成も支援してきた。農業経営の現場における情報化を推進する上でも、また民間農業情報会社に対しても貢献してきた。アメリカの今日の情報化段階を実現させたのは大学であることを看過してはならない。
 民間情報会社が育ってきた今日、将来に向けての大学の役割は次世代の知識処理ソフト・ウェアの開発やネット・ワーク化の研究領域にシフトするであろう。近未来的なソフト・ウェア開発研究の分野では、より一層ヒューマン・ライクな意思決定支援を目指した統合型ソフト・ウェアの開発に向かおうとしている。例えばミシガン大学では国際共同研究によって「AIMS:Agricultural Integrated Management Software 」の開発に着手している。
 一方、市場市場指向型農業を標榜するアメリカ農務省はデータの収集・公表において重要な役割を担ってきた。市場情報、経営管理支援情報、技術普及情報等、大学や民間情報会社が情報提供者IPたるための、情報処理される前の「データ」をシステマテックに収集・提供してきた。末端農家も、大学も、民間情報サービス会社もそれを自由に利用できる。
 政府機関は今後も公的なデータ収集と提供を分担するであろうが、情報処理技術の高度化に伴い、政府のデータ収集も一層高度化、システム化されよう。特に「情報ハィ・ウェイ」とGIS、GPSによるデータ収集は、そのニーズの高まり、公共性から判断して政府機関の重要な分担領域になろう。
 いずれにしても、民間、政府、および大学の相互分担は維持される。もち論、政府が担当する情報収集・公表も、大学の情報化研究、農業者情報リテラシィ教育も非常にコスト負荷を要する。だが、この種の公的サービスが農業者の営農情報への潜在ニーズを引き出す一方、端の情報供給者たる民間情報会社やソフト・ハウスに、農業者への低価格での情報供給を保証している。もっとも、大学は農業者に対する情報提供機能の一翼を担っている点で、民間情報会社と一定程度の競争的関係にもある。つまり、民間情報会社とは「競争的共存」の関係にある。民間、政府、大学の競争的側面を有する機能分担が公正で健全な情報市場を維持させながら農業の高度情報化にむけた発展を促すであろう。

(永木 正和)

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